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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)15342号 判決

反訴原告

鴨下勇一

反訴被告

横山智行

主文

一  反訴原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  反訴被告(以下「被告」という。)は、反訴原告(以下「原告」という。)に対し、金二七四万七一七四円及びこれに対する昭和五七年一一月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五七年一一月二五日午前八時一五分ころ

(二) 場所 東京都目黒区下目黒六丁目一八番二六号先

(三) 加害車両 普通乗用自動車(以下「被告車」という。)

右運転者 被告

(四) 被害車両 普通乗用自動車(以下「原告車」という。)

右運転者 原告

(五) 事故態様 停車していた被害車両に加害車両が後方から追突(以下「本件事故」という。)

2  受傷及び治療経過

原告は、本件事故により頸椎捻挫、腰部打撲の傷害を負い、次のとおり、通院治療した。

(一) 青木病院 昭和五七年一一月二五日

(二) 水野整形外科病院 同月二七日から同年一二月一日まで

(三) 青木病院 同月から同五八年三月二九日まで

(四) 井口整形外科 同六〇年一〇月一七日から現在も通院中

3  責任原因

被告は被告車の運行供用者であり、自賠法三条により本件事故による損害を賠償する責任がある。

4  損害

(一) 治療費 四七万三三〇〇円

井口整形外科通院(昭和六〇年一〇月一七日から同六一年七月二九日まで)に係る分((二)、(三)の損害についても同じ)

(二) 通院交通費 五万二五六〇円

(三) 通院慰藉料 八五万〇〇〇〇円

(四) 後遺症逸失利益 三七万一三一四円

原告は本件事故により項部から背部にかけての腫間、鈍痛等局部に神経症状を残す後遺症を有しており、これは、後遺症等級一四級に相当する。したがつて、労働能力のうち五パーセントが三年間喪失されるものとし、再発前三か月の平均賃金一日七四五〇円を基礎として年五分の割合で中間利息を新ホフマン方式により控除(係数二・七三一〇)すると、次の算式のとおり、逸失利益は三七万一三一四円となる。

(算式)

七四五〇×三六五×二・七三一〇=三七万一三一四円

(五) 後遺症慰謝料 七五万〇〇〇〇円

(六) 弁護士費用 二五万〇〇〇〇円

よつて、原告は、被告に対し、損害金合計二七四万七一七四円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五七年一一月二五日から民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。しかしながら、原告は昭和五八年初頭に軽快又は治癒しており、井口整形外科での通院治療は本件事故と因果関係がない。

3  同3の被告が被告車の運行供用者であることは認める。

4  同4の事実は否認する。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)は、当事者間に争いがない。

二  請求原因2(受傷及び治療経過)について判断する。

1  成立に争いのない乙第一ないし第四、第六及び第八号証によれば、原告は、青木病院で頸椎捻挫と診断され昭和五七年一一月二五日から同五八年三月二九日まで(実治療日数三一日間)通院し、水野整形外科病院で頸椎捻挫、腰部打撲と診断され昭和五七年一一月二七日及び同年一二月一日の両日通院し、井口整形外科病院で頸椎捻挫後遺症と診断され昭和六〇年一〇月一七日から同六一年八月三一日まで(実治療日数九九日間以上)通院したこと、同病院で項部から背部にかけての腫脹感と疼痛は相当長期間持続する見込みであると診断されたことが認められる。

2  しかしながら前掲乙号各証及び原告本人尋問の結果によれば、本件事故は被告車が原告車に追突し原告車の後部バンパーが少しへこみテールランプが壊れた程度のものであつたこと、水野整形外科病院でのレントゲン検査で異常は見られなかつたこと、青木病院では病状は良好となりつつあると診断されたこと、原告は昭和五七年一二月中旬からは就業していること、原告は昭和五八年四月から同六〇年一〇月までは病院で治療を受けていないこと、原告は昭和六〇年に警察病院と綾瀬民衆病院へ診察を受けに行つたことがありいずれも通院の必要がないと言われて一回の通院で終わつていること、以上の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。

3  右認定事実によれば、本件事故は軽微でありレントゲン検査で異常はなく、遅くとも昭和五八年三月ころまでには病状は良好となり、原告はその後通院しなくなつたことが認められる(右認定に反する原告本人の供述部分は信用できない。)のであつて、右事実に前記認定の昭和六〇年に警察病院及び綾瀬民衆病院で通院の必要がないと言われた事実を総合して考えると、前記1で認定した井口整形外科病院への通院及び診断結果をもつてただちに原告に同病院で診断されたとおりの症状がありかつ右症状は本件事故によるものであることを認定することはできないといわなければならない。他に、原告に井口整形外科病院で診断された症状が本件事故に起因するものであることを認めるに足りる証拠はない。

三  以上のとおり、原告の井口整形外科病院で診断された症状が本件事故によるものであることは認められないところ、請求原因4(損害)のうち、(一)ないし(三)は井口整形外科病院通院に関する損害であるから認めることができず、(四)、(五)の後遺症に関する損害も井口整形外科病院での診断結果を前提としたものであり認めることができない(他に原告に後遺症があることを認めるに足りる証拠はない。)。(五)の弁護士費用は(一)ないし(四)の損害が認められない以上、認めることができない。

四  以上の次第で、原告の請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中西茂)

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